トポロジー最適化のマイクロ磁気学への展開:スピン波人工結晶への適用事例

長岡 竜之輔1, 山崎 貴大2, 小嗣 真人1
1東京理科大学,〒125-8585 東京都葛飾区新宿6丁目3番地1
2横浜国立大学,〒240-8501 横浜市保土ケ谷区常盤台79番5
发布日期 2026

・緒言  磁性体中のスピンの運動が波動として伝播するスピン波(マグノン)は,伝搬時にジュール損失を伴わず,GHz帯の高い駆動周波数とnmスケールの短い波長を両立できることから,次世代の情報担体として省エネルギー情報処理デバイスへの応用が期待されている。なかでもマグノニック結晶(MC)は,磁性材料から構成されるnmスケールの人工周期構造であり,マグノンの分散特性を制御可能な素子である。しかし,MCの構造とマグノンの分散関係との間には複雑な因果関係が存在するため,体系的な設計指針の構築はこれまで困難であった。  トポロジー最適化は,構造の自由な変形を許容することで人間の発想のみでは得ることが難しい高性能な構造を設計する手法であり,構造力学・流体力学・電磁気学などの分野で成果を挙げている。しかしながら,ミクロなスピンの運動を解析するマイクロ磁気学におけるトポロジー最適化の実証は近年始まったばかりである[1][2]。そこで本研究では,トポロジー最適化とLandau-Lifshitz-Gilbert (LLG) 方程式に基づくマイクロ磁気シミュレーションを融合し,従来見いだされていなかったMCの新奇構造を効率的に探索するアルゴリズムを構築した。本研究は,スピン波の分散制御にトポロジー最適化を適用した初めての事例である[3]。

・方法および結果  Fe(鉄)とEuO(酸化ユーロピウム)から構成される二元系MC (図 1) を対象に,線形化LLG方程式を固有値問題として解くことで,交換モードマグノンのバンド分散を計算可能な数値計算を実装した。実装には,COMSOL MultiphysicsのPDE Moduleを用い,MATLAB LiveLinkを介して最適化計算を実装した。FeとEuOの二値材料分布を設計変数とし,完全マグノニック・バンドギャップ幅を最大化するバイナリー・トポロジー最適化問題として定式化した。最適化ソルバーには遺伝的アルゴリズムを用いて,広いバンドギャップを有する新奇MC構造を探索した。  構造探索の結果を図2に示す。最適化対象とするバンドギャップの次数をn=2~7の範囲で変更したところ,すべての次数において非自明なトポロジー構造へ収束した。特に,第7・第8バンド間のギャップを対象として最適化した構造では,従来構造と比較してバンドギャップ幅が830%と大幅に増大した。また,最適構造に外部磁界を印加することで,ギャップ幅を維持したままギャップ形成の周波数帯を柔軟に制御できることを確認した。以上の結果は,スピン制御に対するトポロジー最適設計の有効性を示すものであり,高効率なスピントロニクス素子の設計への応用が期待される。