月極域の熱環境シミュレーションの開発

木下真一1, 宮崎理紗1, 山本光生1, 佐藤広幸1
1宇宙航空研究開発機構
发布日期 2026

月極域は、水などの揮発性物質の存在が期待されることから、将来のローバー運用や資源探査における重要な探査対象である。その運用計画やミッション検討には、月面温度を正確に把握することが重要であり、我々は月極域への適用を目指した熱環境シミュレーションの開発を進めている。そのための第一段階として、まずは低緯度領域を対象に、月面温度を推定可能でユーザーフレンドリーなCOMSOLシミュレーションツールの開発に取り組んでいる。昨年度は、その一環としてメートルスケールの局所領域を対象とした3次元熱解析モデルと、クレータースケールの広域地形を対象としたモデルの2つを開発した。

1つ目のモデルでは、1 m × 1 mスケールの月面局所領域を対象に、Heat Transfer Moduleを用い、地中への熱伝導、太陽入射光および熱放射から月表面の上面境界条件を決定し、これに基づき3次元で温度分布を計算した。アポロ17号着陸地点における温度計測結果と比較した結果、日変化および深さ方向の温度分布は観測結果と整合的であることがわかった(図1)。

2つ目のモデルは、1つ目のモデルと同一の物理過程に基づき、約50 km × 50 kmのクレーター領域を対象とした。本モデルの計算結果を、月周回探査機Lunar Reconnaissance Orbiter(LRO)搭載のDivinerによるリモートセンシング観測から推定された表面温度と比較した。その結果、表面温度の大局的な空間分布は観測結果と一致した(図2)。一方、計算コストの制約から地下メッシュサイズをメートルオーダーとしているため、数センチメートルスケールの浅部温度勾配は再現できず、温度絶対値には数十K程度の差が見られた。

今後は、広域解析と高精度な地下温度計算を両立させるため、地下方向の熱伝導は1次元モデルで効率的に解きつつ、太陽放射および地形間の熱輻射は3次元地形を考慮して計算するモデルの開発を進める予定である。