FFSモード液晶ディスプレイのフリッカー現象解析に向けたマルチフィジックス連成モデルの構築
フリンジフィールドスイッチング型液晶ディスプレイ(FFS-LCD)は、広視野角と高い開口率、優れた色再現性を兼ね備えることから、スマートフォンやタブレットをはじめとする高品位ディスプレイの主流方式として広く受け入れられている。一方で、この高い表示品位を維持するうえで、フリッカー(ちらつき)は最大の課題の一つとなっている。フリッカーは表示品質を直接損なうだけでなく、長時間の使用における視覚的な疲労の要因にもなり得るため、その抑制はディスプレイ開発における重要な技術課題である。しかしながら、フリッカーの根本原因は依然として特定されておらず、産業界では根本的な解決に至らないまま、材料選定や駆動方式の調整によって経験的に低減が図られているのが現状である。フリッカーは、液晶ダイレクタのダイナミクス、液晶中に存在する可動イオンの挙動、およびそれらと画素駆動回路との相互作用といった、互いに連成した複数の物理現象から生じる。これらの要因を実験のみで個別に切り分けて評価することは難しく、現象を統一的に扱うマルチフィジックスモデルが求められる。 本研究では、アプリケーションライブラリの既存モデルに依らず、独自のモデルを構築した。液晶ダイレクタの配向挙動を記述するEricksen–Leslie方程式をCoefficient Form PDEとして実装し、フリンジ電界を扱う静電場(AC/DC モジュール)、空間電荷効果と材料間境界でのButler-Volmer型反応を記述するイオン輸送(電気化学モジュール)、画素駆動を表現するElectrical Circuit、サンプルホールド周期に同期して駆動電圧を切り替えるEvents、および材料間境界における電荷授受を積分・追跡するGlobal ODE and DAEを組み合わせた。これらのインターフェースを双方向に連成させることで、ダイレクタの配向、電位分布、イオン分布、境界電荷、および回路状態が相互に影響を及ぼしながら一体として時間発展する解析系を実現した。 構築したモデルにより、アクティブマトリクス駆動下におけるダイレクタの過渡的な再配向、可動イオンに起因する電位シフト、およびSample-and-Hold動作を通じた境界での電荷授受を再現することができた。これにより、従来は実験的に分離が困難であったフリッカーの各要因を、シミュレーション上で切り分けて評価することが可能となる。本モデルは、FFS-LCDのフリッカーを物理的な観点から解析するための基盤を提供するものであり、材料や駆動方式の設計指針の検討にも応用できると期待される。
